帝国湯のオーナーからもらったもの。
東京中がホットヨガスタジオになったような、究極に蒸し暑い1日だった昨日。帝国湯のオーナー、甚五(ジンゴ)さんとお約束があったので、荒川区の三河島駅にある銭湯、帝国湯へ行ってきた。
以前取材させていただいてから、お会いするのは4ヶ月ぶり。5月、6月は水芭蕉が綺麗に咲くから見にいらっしゃいよと言われたのに、結局間に合わなかったな。元気かなぁ。
細い路地を若干迷いつつ、もわっとした空気をかき分けながらやっと到着。まだのれんが仕舞われた開店前の銭湯の扉を開けた私を迎えてくれたのは、「よく来たわねぇ、ごくろうさま。暑かったでしょ!」というハキハキしたよく通る声と、Tシャツ姿のジンゴさん。おお、前にお会いした時は厚着でいろいろ着込んでいたからなんかより元気になったように見える…。
挨拶もそこそこに、「コーヒー飲むわよね!」と奥にコーヒーを入れに行ってくれる。飲用できるほど綺麗な地下水の湧く帝国湯。そういえば、先日取材に行った時も地下水を使った水出しコーヒーをだしてもらったのだ。
ジンゴさんは、若い。
御歳70を迎えるとは思えないほど、広い銭湯の脱衣所をあっちへこっちへと身軽に動く。
今日の本題は、取材記事の内容確認のはずだったのだけど、記事の内容が庭の話になると、「ちょっとこっちきて。」と庭に案内されて今の植物のホットな情報を細かく教えてくれるし、「あなたの見れなかった水芭蕉の写真があるのよ。」とA3サイズに引き伸ばして分厚いファイルにまとめた写真アルバム(これが結構上手!)を奥から持ってきては、季節によって訪れる鷺や花の説明を延々としてくれる。
私はもともと植物好きなのもあるけれど、庭の話をしているときの少女のようなジンゴさんが好きなので、次々に出てくる話題をただ楽しく聞いていて、今や帝国湯の庭のナメクジ撃退対策、鷺との攻防、柊の年齢、鯉の窃盗事件、庭の木の肥料のメーカーまで知ることとなった。(今日は肥料を一袋もらって帰った。)
今日教えてもらったのは、柊の話。
帝国湯の庭に植えられている柊は、根本と木のちょうど真ん中あたりが抉られたようになっている。
これは、ジンゴさんのお母様曰く戦時中に焼夷弾の当たった跡なのだそう。焼夷弾の降る戦争の最中にも帝国湯が今のようにここに立って居た証のようなもの、と言われると、思わぬところにある戦争の感触にゾクリとする。
この柊は帝国湯とほぼ同じく100年近い樹齢を迎えており、葉っぱがまぁるくなっているのだそう。
「これじゃチクチクしないから節分の鬼払いにはならないわよね。笑」とジンコさん。
ちなみにこっちが普通の柊。
トゲついた葉っぱも年齢と共に角が取れるんですねぇとか言いながら2人でのんびり木を眺める。『冬の木』という名の通り、冬には白いほのかにいい匂いの漂う花を沢山つけるそうだ。
ジンゴさんはめざとい。
話をしているときに蚊に刺されて、ちょっと足を掻いていると「蚊に刺されたの?ちょっといいの持ってくるわ」とまた立ち上がる。
おもむろに出てきたのは、梅酒でもつけているような大きな瓶。中にはドクダミのような色の草と液体が入っている。「あんまり薬には頼りたくないからね。これつけるとかゆみが引くのよ」と言って葉っぱを取り出してくれた。
「あ、ほんとだ。こすってたら、たしかにちょっと引いた気がする…。」
「ヤブカラシって草でどこにでもある雑草。三河駅前にも生えてたわよ」
ほへー。
なんて言っている間に、また立ち上がって何処かに行ったと思ったら小瓶を持ってきて、私が持って帰れるように入れ替えてくれた。
結果。
原稿を確認しに来ただけだったのに、帰る頃には私のバッグにはジンゴさんお手製のかゆみ止めと、ジンゴさんおすすめの木の虫除け肥料一袋が入っていた。
これだ。前回来たときにも感じた、なんだかすごく、おもてなしされた感。
いいものや知っていることを惜しげもなく共有して、同じ気持ちをシェアすること。
新しいものを積極的に試して取り入れる少女のような若い気持ちと、フットワークの軽さ、相手のことをちゃーんと見て必要とするものをフラットに考える目ざとさ。
ジンゴさんが普通にできるこれは、『サービス』業の根っこの部分じゃなだろうか。まず目の前の相手をちゃんと見て、そして人間関係と新しい”面白いこと”を一緒に作っていくという姿勢は、普通に企業の営業が取り入れるべき考え方にも通じると思う。
豪華さや華やかさなんてないけども、とても居心地のいい時間。
少し前にスパイラルホールの『脳よだれ展』という展示会で見た、帝国湯の左右対称写真を思い出して、ジンゴさんだからいろんな分野のプロに愛されて、新しい挑戦ができる銭湯なんだなぁと改めて思った。
ああ、あんな70歳になりたいなぁ。
#帝国湯
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